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第二回軍団クリスマス 二日目

そして、夜が明けた。Y野の家のベッドは硬いので寝心地最悪だ。数ヶ月前に布団とカーペットの入荷依頼をY野に出したはずなのに、一体どうなってしまったんだろう?

目が覚めたらプレゼントが何も無くなっている。しばし考える。……そうか、折りたたみベッドを設置するためおもちゃはモルゲンレーテに格納したのだった。もはやモルゲンレーテは軍団の秘密施設でなく、物置と化してしまった。Y野もなぜか米をモルゲンレーテに置く。

とりあえず取り出して遊ぼうと思った。すると中では無残にメガリスが放り投げられていた。それは異様なオーラを発している。おそらくこれが「邪悪」ということなのうだろう。とてもじゃないが、入り口に投げ捨ててもいいようには思えない。確実に罰が当たる。そう思った私はメガリスを捨てるのを諦めた。

しかしこの時点ですでに軍団にはメガリスの呪いがかけられていたのだ……。ゆかりんはこの日を境にまともにビデオ録画をすることが出来なくなった。その呪いは今でも続いているという…。

しかし、呪われたのはゆかりんだけではない。Y野もだった。ゆかりんと私でベッドに乗った瞬間、ベッドの脚が折れたのだ。ベッドは見るも無残な鉄塊に変わり果てた。もちろん、これも呪いのせいだ。多分、Y野が客人に対して何の朝食を出そうとしないのも、呪いのせいだ。

我々は幾多の呪いに苦しめられながらも、無如意が来るのを待った。怪奇シリーズのボードゲームをやりながら待った。

 

 

そして無如意はやって来た。でも来たからといって、何かが変わるわけでもない。もうグダグダだよっ!!勘弁してくれよっ!!Y野テメェいつまで寝てるんだよっ!!

とりあえず今夜のイベントまでの時間をY野邸で過ごした。昨日もらったおもちゃがつまらないものばかりだと再確認するように、何度も、何度も、遊んだ。そして飽きた。
頼みの綱であるカブトボーグも無尽蔵のカスタマイズ、グロウアップにより、皆純粋にカブトボーグを愛することを忘れ、邪悪なカブトボーガーと成り果てた。

そしてイベントのため神と合流するべく、高田馬場へと向かった軍団一同。今回のイベントというのが「Sweet Voice」という、まぁつまり売れない声優が集まるイベントですよ。去年のクリスマスを踏まえ、またもや場所は小粋なクラブっぽいところにしてみた。そして今回は難易度を上げて、会場は渋谷だ。軍団と渋谷。一体どうやったらこの二者が結びつくのだろうか。ミスマッチ加減なら最高レベルだ。流石軍団クリスマス。

今回はクリスマスということで、サンタの帽子を着用してイベントに望むことにした。しかしだ。どこの百円ショップもサンタ帽は売り切れ。今日は25日。きっと悪意のある集団によって買占められたに違いない。そういえば一週間くらい前、小隊長が部室にサンタ帽を持ってきてたっけ。

まぁ、ないものは仕方ない。武装もなしというのは不安だが、やるっきゃねぇならやってやるよ!!ところで途中でW田中が勝手にふらふらしだしたので、百円ショップにおいていった。我々はこんなところで立ち止まることなど出来ないのだ。前に進み続ける。それが軍団魂。それにさ、W田中だってさ、もう子どもじゃないんだしさ、ひとりで渋谷くらいこれるだろ。

ということで御大、神、Y野は渋谷駅に到着。そしてW田中も自力で渋谷駅に到着。現場ではオタクの吹き溜まりみたいなものが出来ていた。渋谷の中でもこの異様に浮いた雰囲気。間違いない。これが我々の目的地だ。

神が「109」に行こうという提案に心が揺り動かされたりもした。Y野がコール表配ってるおじさんから紙をもらおうとしたらシカトされたりもした。受付の姉ちゃんが番号順だから前に並べというので「いや、僕ら別にどこでもいいんで」とも言った。今回は別にイベントを楽しむためにここに来たんじゃない。無如意と私を傷つけた稲村に一撃を加えるために来たのだ。最前列だろうが最後列だろうが場所は関係ない。我々はファンではないのだから。

そして入場。やっぱりというか、受付で「誰のライブを見に来ましたか?」と聞かれた。今回はLittle Nonメインだから当然「リトルノンです。」という場面だが、W田中はしっかりと「ゆうなちゃんです。」と言っていた。偉いな。

今回も100人に満たない規模を想定していたのだが、どうやら200はいそうだ。って、会場すし詰め状態だぜこれ?後ろの奴らとか階段に座り込んでやがる。どんなイベント会場だよ?これは軍団領域を確保せねば確実に荷物はデストロイされると判断。5人の軍団を円形に配置。中央に軍団の荷物を集中し、死守することにした。

そして異様な雰囲気に包まれたイベント会場。なんだかんだで割りと前のほうの中央を確保。ふと横を見ると、まだイベントが始まってもいないのに一人で来ていた太ったオタクが大きく前方に手をかざしてジャンプをした。

「Fuuuuu!!!」

我々も言葉では知っていたが、本物を見たのは初めてだ。これが噂のヲタ芸「奇襲」だ。間違いない。あまりの衝撃に無如意と私は言葉を失った。どうやら他の軍団員はこの光景を目撃していなかったようだ。言葉で説明しても分かってくれやしない。あるいは、これでよかったのかもしれない。こんなオタクのキモい一面を垣間見るのは俺と無如意だけでいい…。

そしてイベントの開始。いきなり訳が分からん奴が出てきて「刹那に殺して」という歌を歌っていった。頭がおかしい、というより精神病院に通ってそうな感じの女が突如現れたからびびった。おいっ、これっ、おかしいだろっ!事前の出演情報にはこんな奴来るなんて一言も書いてないぞっ!?あれ、おっかしぃなあ。来るとこ間違えちゃったかなぁ?

そして大沢千秋の登場。今回の軍団の敵はそいつじゃない。早く稲村を出せ!

次に小林ゆうの登場。私事で悪いのだが、私はどうも小林ゆうの客に媚を売る感じが好きになれない。今回も最前のファンの頭からハチマキを取り、自ら着用後、ファンに返却というおいしいパフォーマンスを決めるところ、流石ファンサービスが絶えないぜ。私は小林ゆうのこういうところが嫌いだ。って、今回はW田中はローテンションでいくって言ってたくせに、突然盛り上がりだす。前から思っていたのだが、これはプロデューサーである私に対するあてつけなのだろうか?終了後、W田中は小林ゆう様を崇拝する者だかなんだかを名乗っていたが、きっと私のことを馬鹿にしているに違いない。

このへんで早くも神が「ぼっ、僕帰りたい」と言い出す。あと2時間くらいの辛抱だ。耐えてくれ。Y野はいたのかどうかも分からないくらい存在を消していた。

そしてついに稲村率いる「らっきぃスリィ」の登場。待っていたぜ、稲村優奈。あの時の屈辱は決して忘れていない。でも具体的に何をしたらいいのだろう。対面してるならまだしも、一観客としてはやれることはほとんど無い。こんなときのためにさっき買ってきた百円ショップの電池で光る安っぽい三色発光のペンライトがある。このチープさが逆に普通のペンライトより目立つ。さぁ、この安っぽい発光が気になって、イベントに集中できないはずだ!

我々の思いとは裏腹にイベントは滞りなく進み、らっきぃスリィは客席にキャンディを投げる。このあたりから観客が暴徒に変わっていったように思えるのは気のせいだろうか?

ここでしばしの休憩に入る。そうしたら突然後ろのオタク集団のヘッドが軍団に話しかける。「ここはさぁ、みんなが入りきらないから少しずつ詰めて場所を確保してるんや。だから荷物をまとめるのはやめてくれへんか。まぁ、自分らだけ楽しけりゃいいって言うんならそれでもええけど。」 非常に道徳的な発言だ。彼の言うことは最もだ。軍団は身内や敵に対していくら迷惑をかけようとも気にしないが、公共に対して迷惑をかけるつもりは微塵も無い。自慢ではないが、軍団員は警察のお世話になったことはS川事件と違って、一度も無い。ここは言うとおり荷物を片付ける。

そしてメインのLittle Nonの登場。彼女は敵ではない。秋葉原でゲリラライブをやって、服が派手すぎる、扇動的だと警察に指摘され、強制終了させられるようなことを二度も繰り返している芸人気質のお茶目さんなんだ。前述したとおり、警察の御用になる気はさらさら無いが、芸人としては見習うべき部分が多々ある。

そしてLittle Nonに呼ばれサンタコスで再登場の稲村。ここまでくると狭い室内にすし詰めにされたオタクの盛り上がりは尋常ではなく、暴徒に変わっていたように「思える」のレベルを超えようとしていた。W田中も暴徒と化していた。神はぐったりしていた。Y野は、放心していた。

ここからが地獄の始まりだった。軍団は圧殺されそうになりながら荷物を死守していたが、稲村は軍団を嘲笑うかのように、トドメの「SUPER LOVE」を発動させた。

皆さんは大衆が正気を失い、一つの同じ意思を持った生き物であるかのように、同じものに心を奪われ暴徒に変わる瞬間を実際に見たことがあるだろうか?よく年末にやってる衝撃映像とかで流れ出しそうなあれだ。私はこのとき、初めてそれを目の当たりにした。

すでに満員の人の波が後ろからあふれ出したのだ。再現ドラマとかのバーゲンの映像と全く同じ現象が、起きたのだ。自分の身を守れるのは自分だけだと、この言葉の意味を、このとき思い知った。きっと稲村はこうなることを分かっていて、観客を扇動したに違いない。警察沙汰になったLittle Nonより明らかにたちが悪い。

そして、ちょうど神の後ろにいた人間が突如、暴れだす。こっ、これはっ、狭い場所では御法度のヲタ芸「ロマンス」ではないか。さらにそれを回転を加えてヲタ芸を繰り出す!!……ってこいつらさっき軍団に注意した連中じゃねぇかよっ!!!!!!この集団は全く回りの迷惑などお構い無しに円状に広がり、好き勝手に思い思いにヲタ芸を披露し、踊り狂っていた。

つまりこういうことだ。この集団は最初から最高潮に盛り上がったところで踊り狂うつもりで、そのスペースの確保のために我々の荷物をどけた。結局、道徳的に思える発言も、私利私欲を満たさんがために振りかざされた暴力の言葉に過ぎなかった訳だ。道徳を語る奴に限って、私利私欲の方便のためでしか道徳を唱えない。こんなことは以前から分かっていたことなのに、またやられた。これだから軍団は「道徳を唱える奴」を信用できない。

そして、「ロマンス」によって放たれた肘鉄は非情にも神の体に直撃する。神を苦しめる。しかし攻撃の手をけしてゆるめはしなかった。耐えるのだ、神!!
後に神はこの経験を「
背中合わせのロマンス」と仰っていた。クリスマスの夜に「背中合わせのロマンス」とは、なんともロマンチックな響きだとは思わないか?

こうして今回のイベントは終了した。なんとも後味が悪い。軍団は稲村に完敗したのだ。圧倒的な扇動力!!攻撃力!!奴は化け物かっ!?かばんの中を確認したらCDが一枚割れていた。敵戦力を知るために購入した稲村のキャラソンだ。ははっ、実にいい思い出ではないか?稲村に扇動されたオタクによって破壊されたCDとは、ある意味稲村のサイン入りCDよりもずっと貴重だ。深く刻まれた教訓と、悔しい気持ちを胸に、第二回軍団クリスマスは幕を閉じた。

 

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